仮の義務付けと仮の差止め|執行停止との要件の違い

取消訴訟などの判決を待っていては間に合わないときのために、行政事件訴訟法は3つの仮の救済を用意しています。執行停止(25条)、仮の義務付け(37条の5第1項)、仮の差止め(同条2項。「仮の差し止め」と書かれることもあります)です。

3つとも、本案の訴えが提起されていること、申立てがあること、裁判所が決定ですることは共通しています。違うのは、どの程度の損害が求められるかと、本案の見込みをどう定めているかの2か所です。

このページでは、行政書士試験の受験生向けに、3つの要件と手続を条文の文言のまま1行ずつ並べ、そのうえで仮の義務付けと仮の差止めの違い、内閣総理大臣の異議、民事保全法の仮処分との関係を確かめます。

本記事は、2026年9月時点の行政事件訴訟法(令和8年5月21日施行)にもとづいています。表で扱う条文は、令和8年度試験の基準日(令和8年4月1日)の時点と同じ内容です。


3つの仮の救済の要件を1行ずつ並べる

表Aは、執行停止・仮の義務付け・仮の差止めについて、要件と決定の手続を同じ項目で並べたものです。仮の義務付けと仮の差止めの列に「準用する」とある行は、37条の5第4項が執行停止の規定を準用している行です。


表A 執行停止・仮の義務付け・仮の差止めの要件と手続(行政事件訴訟法)
項目 執行停止(25条) 仮の義務付け(37条の5第1項) 仮の差止め(37条の5第2項)
前提となる訴え 処分の取消しの訴えの提起があること(25条2項)。無効等確認の訴えにも準用される(38条3項) 義務付けの訴えの提起があること(37条の5第1項) 差止めの訴えの提起があること(37条の5第2項)
損害の程度 重大な損害(25条2項) 償うことのできない損害(37条の5第1項) 償うことのできない損害(37条の5第2項)
緊急の必要 損害を避けるため緊急の必要があること(25条2項) 損害を避けるため緊急の必要があること(37条の5第1項) 損害を避けるため緊急の必要があること(37条の5第2項)
本案の見込み 本案について理由がないとみえるときは、することができない(25条4項) 本案について理由があるとみえること(37条の5第1項) 本案について理由があるとみえること(37条の5第2項)
公共の福祉 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができない(25条4項) 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができない(37条の5第3項) 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができない(37条の5第3項)
申立てか職権か 申立てにより(25条2項)。職権ではできない 申立てにより(37条の5第1項)。職権ではできない 申立てにより(37条の5第2項)。職権ではできない
裁判所が決定ですること 処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(25条2項)。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止で目的を達することができる場合にはできない(同項ただし書) 仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずる(37条の5第1項) 仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる(37条の5第2項)
決定の手続と不服 決定は疎明に基づいてする。口頭弁論を経ないですることができるが、あらかじめ、当事者の意見をきかなければならない。決定には即時抗告ができ、即時抗告は決定の執行を停止する効力を有しない(25条5項〜8項) 25条5項〜8項を準用する(37条の5第4項) 25条5項〜8項を準用する(37条の5第4項)
事情変更による取消し 決定が確定した後に、その理由が消滅し、その他事情が変更したときは、相手方の申立てにより、決定で取り消すことができる(26条1項) 26条を準用する(37条の5第4項) 26条を準用する(37条の5第4項)
管轄裁判所 本案の係属する裁判所(28条) 28条を準用する(37条の5第4項) 28条を準用する(37条の5第4項)
内閣総理大臣の異議 異議があったときは、執行停止をすることができず、すでにした決定は取り消さなければならない(27条4項) 27条を準用する(37条の5第4項) 27条を準用する(37条の5第4項)
第三者効(32条) 執行停止の決定又はこれを取り消す決定に準用される(32条2項) 準用されていない(37条の5第4項の準用の列挙に32条が無い) 準用されていない(37条の5第4項の準用の列挙に32条が無い)
関係行政庁への拘束力(33条1項) 執行停止の決定に準用される(33条4項) 33条1項を準用する(37条の5第4項) 33条1項を準用する(37条の5第4項)
決定が取り消されたとき — 行政庁は、仮の義務付けの決定に基づいてした処分又は裁決を取り消さなければならない(37条の5第5項) —

表Aは、上の6行(前提となる訴えから申立てまで)が要件、その下が決定の中身と手続です。要件の行のうち、前提となる訴えの種類を別にすると、3つの列で要件の書き方が異なるのは損害の程度と本案の見込みの2行だけです。緊急の必要・公共の福祉・申立ての行は、3つとも同じ形で書かれています。

手続の行は、仮の義務付けと仮の差止めが執行停止の規定を準用しているので、ほとんどが同じ扱いになります。準用されていないものとして押さえておきたいのが、第三者効(32条)です。32条2項は執行停止の決定とこれを取り消す決定に第三者効を準用していますが、37条の5第4項が準用しているのは25条5項〜8項・26条〜28条・33条1項で、32条は挙がっていません。

「重大な損害」と「償うことのできない損害」

執行停止の要件は重大な損害を避けるための緊急の必要で、仮の義務付けと仮の差止めの要件は償うことのできない損害を避けるための緊急の必要です(25条2項、37条の5第1項・2項)。

ここで混同しやすいのが、本案の訴えの要件です。非申請型の義務付けの訴え(37条の2第1項)と差止めの訴え(37条の4第1項)は、重大な損害を生ずるおそれがあることを訴えの要件にしています。つまり、非申請型の義務付けと差止めでは、本案の訴えが「重大な損害」、仮の救済が一段重い「償うことのできない損害」という並びです。申請型の義務付けの訴え(37条の3)には損害の要件はありませんが、仮の義務付けは申請型・非申請型のどちらの義務付けの訴えを提起した場合にも申し立てることができ、要件は「償うことのできない損害」です(37条の5第1項)。

仮の差止めの要件を「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」とする肢は誤りです。「重大な損害」は差止めの訴えそのものの要件(37条の4第1項)と、執行停止の要件(25条2項)で使われている語で、仮の差止めの要件は「償うことのできない損害」です(37条の5第2項)。

執行停止のほうは、本案である取消訴訟に損害の要件がなく、仮の救済である執行停止において「重大な損害」が求められます。本案と仮の救済のどちらの話をしているのかを先に決めると、2つの語を取り違えにくくなります。

「重大な損害」を生ずるか否かの判断について、損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質・程度と処分の内容・性質をも勘案する、という定めがあります(25条3項、37条の2第2項、37条の4第2項)。37条の5には、この判断の仕方の定めは置かれていません。37条の5の要件は「償うことのできない損害」で、37条の5第4項が準用する規定(25条5項〜8項など)にも、25条3項は含まれていません。

「理由がないとみえるときはできない」と「理由があるとみえる」

本案の見込みの書き方も、執行停止と仮の義務付け・仮の差止めで向きが逆です。

  • 執行停止:本案について理由がないとみえるときは、することができない(25条4項)。できなくなる場合として書かれています
  • 仮の義務付け・仮の差止め:本案について理由があるとみえること(37条の5第1項・2項)。要件の1つとして並べられています

執行停止では、本案の見込みがはっきりしないときでも、理由がないとみえる場合にあたらなければ、この点で執行停止ができなくなることはありません。仮の義務付けと仮の差止めでは、理由があるとみえることが積極的に求められます。「理由がないとみえるときはできない」と「理由があるとみえるときに限りできる」は同じ意味ではない、というところまで押さえておくと、書き方を入れ替えた肢に気づけます。


仮の義務付けと仮の差止めは、何を命じるかが逆

仮の義務付けと仮の差止めは、37条の5の1項と2項に同じ形で並んでいます。要件の組み立ては同じで(損害が、処分がされないことにより生ずるか、されることにより生ずるかは逆になります)、違うのは次の2つです。

  • 前提となる本案:仮の義務付けは義務付けの訴え、仮の差止めは差止めの訴え
  • 裁判所が命じること:仮の義務付けは、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨、仮の差止めは、仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨

どちらも、本案の訴えの提起があった場合にすることができると書かれています(37条の5第1項・2項)。

義務付けの訴えや差止めの訴えを提起しないまま、仮の義務付けや仮の差止めだけを申し立てることはできません。37条の5は、1項も2項も、本案の訴えの提起があった場合について定めています。執行停止が処分の取消しの訴えの提起を前提にしているのと同じ形です(25条2項)。

また、仮の義務付けにだけある定めとして、37条の5第5項があります。即時抗告についての裁判や、事情変更による取消しの決定によって仮の義務付けの決定が取り消されたときは、行政庁は、仮の義務付けの決定に基づいてした処分又は裁決を取り消さなければなりません。仮の差止めに同じ定めが無いのは、仮の差止めが処分をしないよう命じるものであり、仮の差止めの決定に基づいて行政庁が処分をすることがないからだと考えると整理しやすいでしょう。

申請を拒否する処分には、仮の義務付け

執行停止で裁判所が行うのは、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の停止です(25条2項)。申請を拒否する処分について執行停止をしても、申請どおりの処分をするよう行政庁に命じることにはなりません。行政庁に処分をさせる内容の仮の救済は、仮に処分をすべき旨を命ずる仮の義務付けです(37条の5第1項)。

申請を拒否された人が、申請どおりの処分を仮に得たいとき、拒否処分の取消しの訴えと執行停止の組み合わせでは足りません。義務付けの訴えを提起したうえで、仮の義務付けを申し立てることになります。このときの義務付けの訴え(申請型)は、拒否処分の取消訴訟又は無効等確認の訴えと併合して提起しなければなりません(37条の3第3項2号)。


内閣総理大臣の異議と、民事保全法の仮処分

内閣総理大臣の異議は準用される

執行停止の申立てがあった場合には、内閣総理大臣は、裁判所に対し、異議を述べることができます。執行停止の決定があった後においても同じです(27条1項)。条文の要点は次のとおりです。

  • 異議には理由を附さなければならない(27条2項)
  • 異議があったときは、裁判所は執行停止をすることができず、すでに執行停止の決定をしているときは、これを取り消さなければならない(同条4項)
  • 決定の後に述べる異議は、決定をした裁判所に対して述べる。決定に対する抗告が抗告裁判所に係属しているときは、抗告裁判所に対して述べる(同条5項)
  • やむをえない場合でなければ異議を述べてはならず、述べたときは、次の常会において国会に報告しなければならない(同条6項)

この27条は、37条の5第4項によって仮の義務付けと仮の差止めにも準用されています。仮の救済の3つのどれについても、内閣総理大臣の異議がありうるということです。

一方、行政不服審査法の執行停止には、内閣総理大臣の異議の定めは置かれていません。審査庁ごとの違いとあわせて、行政不服審査法の執行停止のページで行政事件訴訟法と並べています。

民事保全法の仮処分はできない

行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法に規定する仮処分をすることができません(44条)。公権力の行使に当たる行為について裁判所に仮の救済を求めるときは、行政事件訴訟法の執行停止・仮の義務付け・仮の差止めによります。

インターネット上では「工事差し止めの仮処分」という言い方の質問も見かけますが、民事上の争いについての仮処分と、公権力の行使に当たる行為についての仮の救済は、根拠となる法律が別です。44条が仮処分を排除しているのは、公権力の行使に当たる行為についてです。


本試験での出題

表Bは、平成21年度〜令和7年度の本試験のうち、37条の5・27条・44条にかかわる肢があった問を並べたものです。「当たる肢」はその問のうち3つの条のどれかにかかわる肢の数で、「問われ方」は過去問の分析で付けた分類です。問題文は載せていません。


表B 本試験での出題(行政事件訴訟法37条の5・27条・44条。平成21年度〜令和7年度・15問26肢)
年度・問 形式 条文 当たる肢 問題のテーマ 問われ方
平成21年度 問17 択一式 行訴法37条の5・行訴法44条 3肢 仮の救済制度(執行停止・仮の義務付け・仮の差止め) 適用範囲/要件・効果の正誤/主体すり替え
平成23年度 問17 択一式 行訴法37条の5・行訴法27条 5肢 執行停止に対する内閣総理大臣の異議 要件・効果の正誤/主体すり替え/制度の混同
平成23年度 問18 択一式 行訴法44条 1肢 実質的当事者訴訟 適用範囲
平成23年度 問43 多肢選択式 行訴法37条の5 2肢 行政の不作為に対する訴訟(不作為の違法確認・義務付け・仮の義務付け) 条文知識
平成24年度 問25 択一式 行訴法37条の5 1肢 情報公開の不開示決定に対する争訟手段 要件・効果の正誤
平成25年度 問16 択一式 行訴法37条の5 1肢 申請型・非申請型義務付け訴訟の要件の異同 要件・効果の正誤
平成26年度 問16 択一式 行訴法37条の5 1肢 不作為の違法確認の訴え(37条)の要件・準用・出訴期間 制度の混同
平成26年度 問42 多肢選択式 行訴法44条 1肢 行政事件訴訟法の準用・仮の救済・訴訟参加 条文知識
平成29年度 問17 択一式 行訴法37条の5 1肢 申請拒否処分の取消訴訟(義務付け・執行停止・出訴期間・訴えの利益・拘束力) 制度の混同
平成29年度 問19 択一式 行訴法37条の5・行訴法27条 5肢 仮の差止め(37条の5)の要件・手続 適用範囲/要件・効果の正誤/制度の混同/条文知識
令和2年度 問19 択一式 行訴法37条の5 1肢 義務付け訴訟(申請型・非申請型)の要件・判決・仮の義務付け 要件・効果の正誤
令和4年度 問17 択一式 行訴法44条 1肢 行訴法の諸規定(抗告訴訟の類型・不作為・仮処分・当事者訴訟) 適用範囲
令和5年度 問44 記述式 行訴法37条の5 1肢 出席停止懲罰の事前救済(差止訴訟・仮の差止め) 手続の流れ・順序
令和6年度 問16 択一式 行訴法27条 1肢 行審法と行訴法の比較(期間・教示・拘束力・執行停止・差止め) 制度の混同
令和7年度 問19 択一式 行訴法37条の5 1肢 処分差止めの訴え・仮の差止めの要件(37条の4・37条の5) 要件・効果の正誤

37条の5だけで見ると、平成21年度〜令和7年度の間に11問17肢が確認できます。平成29年度 問19は、すべての肢が37条の5にかかわる問でした。内閣総理大臣の異議(27条)は3問6肢、民事保全法の仮処分の排除(44条)は4問4肢です。

択一式だけではありません。多肢選択式でも2問あり、記述式でも令和5年度 問44で37条の5が問われています。記述式の問題と論点は、記述式の論点別のページで年度ごとに確かめられます。


よくある質問

行政事件訴訟法における仮の義務付けとは?

義務付けの訴えの提起があった場合に、その訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときに、裁判所が、申立てにより、決定をもって、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることをいいます(行政事件訴訟法37条の5第1項)。公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができません(同条3項)。

仮の差止めの要件は?

差止めの訴えの提起があること、その訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること、本案について理由があるとみえること、の3つです(行政事件訴訟法37条の5第2項)。そのうえで、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができません(同条3項)。裁判所は申立てによって決定をするので、職権で仮の差止めをすることはありません。

執行停止と仮の差し止めの違いは?

要件の違いは2か所です。損害の程度は、執行停止が「重大な損害」(行政事件訴訟法25条2項)、仮の差止めが「償うことのできない損害」(同法37条の5第2項)です。本案の見込みは、執行停止が「本案について理由がないとみえるときは、することができない」(同法25条4項)、仮の差止めが「本案について理由があるとみえる」ことを要件にしています。前提となる訴えも、執行停止は取消しの訴え、仮の差止めは差止めの訴えです。すでにされた処分の効力などを止めるのが執行停止、まだされていない処分をさせないのが仮の差止めです。

工事差し止めの仮処分の要件は?

行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法に規定する仮処分をすることができません(行政事件訴訟法44条)。公権力の行使に当たる行為を止めたいときは、行政事件訴訟法の執行停止や仮の差止めによることになります。民事上の工事の差止めを求める仮処分の要件は、このページでは扱っていません。


まとめ

執行停止・仮の義務付け・仮の差止めは、本案の訴えの提起、申立て、裁判所の決定という骨組みが同じで、手続の多くは37条の5第4項の準用でそろっています。違うのは、損害の程度(重大な損害/償うことのできない損害)と本案の見込み(理由がないとみえるときはできない/理由があるとみえる)の2か所です。

準用のほうでは、内閣総理大臣の異議(27条)は仮の義務付けと仮の差止めにも準用され、第三者効(32条)は準用されていない、という組み合わせを表Aの行で確かめておきましょう。

行政不服審査法の執行停止との違いは、行政不服審査法の執行停止のページで扱っています。

本案の訴えのうち、審査請求と取消訴訟の関係は、審査請求と取消訴訟の違いのページで確かめられます。

行政法のほかの論点は、行政法の学習のページに一覧でまとめています。