住民訴訟の4類型と出訴期間|住民監査請求・事務監査請求との違い

住民訴訟は、いきなり裁判所に起こすことはできません。まず監査委員に住民監査請求をし、その監査の結果や勧告などに不服があるときに、請求をした住民が起こす訴訟です(地方自治法242条の2第1項)。訴えで求められる請求も、条文の1号から4号までの4つに限られています。

住民監査請求と住民訴訟は、同じ「住民」の制度でも、誰が・何について・いつまでにできるかが少しずつ違います。試験では、その違いを入れ替えた肢や、名前の似た事務監査請求(75条)と混ぜた肢が問われています。

このページでは、行政書士試験の受験生向けに、住民監査請求(242条)と住民訴訟(242条の2)を条文の文言のまま1行ずつ並べ、住民訴訟の4類型と出訴期間、事務監査請求との違い、出題された最高裁判所の判例を確かめます。実際に住民監査請求をするための書き方や手続の案内はしていません。

本記事は、令和8年度試験の法令の基準日(令和8年4月1日)の時点の地方自治法にもとづいています。その後、令和8年9月24日施行の改正で、242条の2第1項4号ただし書が引用している条の番号が変わりました(条の繰り下げに伴う付け替えで、242条の2の文言で変わったのはこの番号だけです)。表と本文は、引用している条の番号を使わずに書いています。


住民監査請求と住民訴訟を1行ずつ並べる

表Aは、242条(住民監査請求)と242条の2(住民訴訟)を、同じ項目で並べたものです。セルの語は、条文の語をそのまま使っています。


表A 住民監査請求と住民訴訟(令和8年4月1日の時点の条文)
項目 住民監査請求(242条) 住民訴訟(242条の2)
誰が 普通地方公共団体の住民(1項) 普通地方公共団体の住民で、住民監査請求(前条第一項の規定による請求)をした者(1項)
誰に 監査委員に対し(1項) 裁判所に対し(1項)
何について 違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担と、違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(1項) 242条1項の請求に係る違法な行為又は怠る事実(1項)。「不当」は入らない
何を求めるか 当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は損害を補塡するために必要な措置を講ずべきことを請求(1項) 訴えをもつて次に掲げる請求=1号から4号までの4つだけ(1項各号・表D)
添えるもの これらを証する書面を添える(1項) —
期間 当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、請求できない(2項)。正当な理由があるときは、この限りでない(2項ただし書) 2項1号から4号までの区分に応じ、各号の日から三十日以内(2項・表E)。この期間は不変期間(3項)
監査の期限 請求があつた日から六十日以内に監査・勧告を行う(6項) 監査委員が60日を過ぎても監査又は勧告を行わないときは、当該六十日を経過した日から三十日以内に出訴できる(2項3号)
行為を止める仕組み 監査委員は、当該行為を停止すべきことを勧告することができる(4項)。要件は、違法であると思料するに足りる相当な理由があること・回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があること・公共の福祉を著しく阻害するおそれがないこと 1号の差止めの請求(1項1号)。公共の福祉を著しく阻害するおそれがあるときは、することができない(6項)。民事保全法に規定する仮処分をすることができない(10項)
どこの裁判所か — 当該普通地方公共団体の事務所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する(5項)
他の住民 — 訴訟が係属しているときは、他の住民は、別訴をもつて同一の請求をすることができない(4項)
勝訴したとき — 弁護士などに報酬を支払うべきときは、普通地方公共団体に対し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる(12項)

いちばん大きな違いは、「何について」と「何を求めるか」の2行です。住民監査請求では、違法若しくは不当な公金の支出や契約の締結などの行為と怠る事実について、その行為の防止・是正や、損害を補塡するために必要な措置を講ずべきことを広く求めることができます。住民訴訟で争えるのは違法な行為又は怠る事実だけで、求められる請求も1項1号から4号までの4つに限られます。

請求の相手も違います。住民監査請求は監査委員に対してするもので、長に対してするものではありません。住民訴訟は裁判所に起こし、事務所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属します(242条の2第5項)。訴訟が係属しているときは、他の住民は、別訴をもって同一の請求をすることができません(4項)。

「住民訴訟では、違法な行為だけでなく不当な公金の支出も争うことができる」とする肢は誤りです。「違法若しくは不当」は242条1項(住民監査請求)の語で、242条の2第1項(住民訴訟)は「違法な行為又は怠る事実」と書いています。

住民訴訟を起こせるのは、住民監査請求をした住民だけ

242条の2第1項は、「普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において」と始まります。住民訴訟を起こせるのは、住民のうち、自分で住民監査請求をした者です。同じ地方公共団体の住民でも、住民監査請求をしていなければ、住民訴訟は起こせません。

そのうえで、訴えを起こせるのは次のどれかに当たるときです(1項)。

  • 監査委員の監査の結果又は勧告に不服があるとき
  • 勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員の措置に不服があるとき
  • 監査委員が、請求があった日から60日以内に監査又は勧告を行わないとき
  • 勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員が措置を講じないとき

このように、先に住民監査請求を経なければならない仕組みは、一般に「住民監査請求前置」と呼ばれます。ただし「前置」は条文の語ではなく、地方自治法の本則に「前置」の語はありません。最高裁判所平成10年12月18日判決は、住民監査請求の制度を「住民訴訟の前置手続」と述べ、まず監査委員に監査の機会を与え、違法、不当を地方公共団体の自治的、内部的処理によって予防、是正させることを目的とするものと解しています。

1年と30日(請求できる期間と出訴期間)

住民監査請求は、当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは、することができません(242条2項本文)。ただし、正当な理由があるときは、この限りではありません(同項ただし書)。

住民訴訟の出訴期間は、どの場合に訴えるかによって起算点が4つに分かれ、どれも30日以内です(242条の2第2項)。この期間は不変期間です(3項)。表Eは、2項の各号を並べたものです。


表E 住民訴訟を起こせる期間(242条の2第2項各号)
号 どんな場合か 出訴できる期間
2項1号 監査委員の監査の結果又は勧告に不服がある場合 当該監査の結果又は当該勧告の内容の通知があつた日から三十日以内
2項2号 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員の措置に不服がある場合 当該措置に係る監査委員の通知があつた日から三十日以内
2項3号 監査委員が請求をした日から六十日を経過しても監査又は勧告を行わない場合 当該六十日を経過した日から三十日以内
2項4号 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員が措置を講じない場合 当該勧告に示された期間を経過した日から三十日以内

1号と2号は「通知があった日」から、3号と4号は「期間を経過した日」から数えます。4つの起算点は、上で見た、訴えを起こせる4つの場合と1つずつ対応しています。「監査の結果の通知から30日」と1つにまとめて覚えると、監査委員が60日を過ぎても監査をしない場合(3号)や、勧告を受けた側が措置を講じない場合(4号)で起算点を取り違えやすくなります。

「住民訴訟は、監査の結果の通知があった日から1年以内に提起しなければならない」とする肢は誤りです。1年は住民監査請求の期間(242条2項)で、住民訴訟の出訴期間は各号の日から30日以内です(242条の2第2項)。


住民訴訟の4類型(242条の2第1項各号)

242条の2第1項は、住民が「訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる」として、1号から4号までを掲げています。一般に住民訴訟の4類型と呼ばれるものです。表Dは、各号の請求を条文の語のまま並べ、関わる定めを右の列に置いたものです。


表D 住民訴訟の4類型(242条の2第1項各号)
号 求める請求(条文の語) 関わる定め
1号 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求 差止めは、公共の福祉を著しく阻害するおそれがあるときは、することができない(6項)
2号 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求 処分の取消し・無効の確認を求める民衆訴訟には、取消訴訟に関する規定・無効等確認の訴えに関する規定を準用する(行訴法43条1項・2項。242条の2第11項で適用)
3号 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求 「怠る事実」は、違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(242条1項)
4号 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求(相手方が賠償の命令の対象となる者であるときは、当該賠償の命令をすることを求める請求) 執行機関又は職員は、遅滞なく、その訴訟の告知をしなければならない(7項)。4号本文の訴訟で、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定したら、普通地方公共団体の長が、判決が確定した日から六十日以内の日を期限として支払を請求し、支払われないときは普通地方公共団体が訴訟を提起する。この訴訟の提起に議会の議決を要しない(242条の3第1項〜3項)

1号は、これから行われる行為を止める請求です。2号は、その行為が行政処分に当たる場合に、取消し又は無効確認を求めます。3号は、公金の賦課・徴収や財産の管理を怠っている事実が違法であることの確認を求めます。4号は、住民が職員や相手方に直接請求するのではなく、地方公共団体の執行機関又は職員に対して、職員や相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をするよう求める請求です。

住民訴訟は、法律に定める場合に、法律に定める者に限って提起できる民衆訴訟です(行政事件訴訟法42条。下の「住民訴訟は民衆訴訟」の節)。そのため、住民訴訟で求められる請求は、242条の2第1項が掲げるこの4つに限られると解されます。条文に掲げられていない請求、たとえば職員の懲戒処分を求める請求は、住民訴訟ではできません。

4号の訴訟と、住民が勝ったあと(242条の3)

4号本文の訴訟(損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを求める訴訟)で、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定すると、普通地方公共団体の長が、判決が確定した日から60日以内の日を期限として、その支払を請求しなければなりません(242条の3第1項)。条文の上で支払を請求するのは長で、原告の住民ではありません。60日以内に支払われないときは、普通地方公共団体が訴訟を提起しなければならず(2項)、この訴訟の提起には議会の議決を要しません(3項)。また、執行機関又は職員に請求を命ずる判決が確定し、地方公共団体がその長に対して訴訟を提起するときは、代表監査委員が地方公共団体を代表します(5項)。

訴訟の途中の定めもあります。4号の訴訟が提起されたときは、執行機関又は職員は、職員や相手方に遅滞なく訴訟の告知をしなければなりません(242条の2第7項)。訴訟告知があったときは、訴訟が終了した日から6月を経過するまでの間、その損害賠償又は不当利得返還の請求権の時効は完成しません(8項)。


住民監査請求と事務監査請求の違い

名前の似た制度に、75条の監査の請求があります。一般に事務監査請求と呼ばれますが、これは条文の語ではありません。12条2項は「事務の監査を請求する権利」と書き、75条は第5章「直接請求」の中に置かれています。表Cは、242条の住民監査請求と、75条の事務監査請求を並べたものです。


表C 住民監査請求と事務監査請求
項目 住民監査請求(242条) 事務監査請求(75条)
条文 242条 75条(請求する権利は12条2項)
誰が 普通地方公共団体の住民(242条1項)。連署の定めは無い。総務省の資料では、自然人でも法人でも可能、1人であってもよい 選挙権を有する者が、その総数の五十分の一以上の者の連署をもつて、その代表者から(75条1項)
請求する権利の書き方 「普通地方公共団体の住民」(242条1項。「日本国民たる」の語は無い) 「日本国民たる普通地方公共団体の住民」(12条2項)
誰に 監査委員に対し(242条1項) 普通地方公共団体の監査委員に対し(75条1項)
何について 違法若しくは不当な公金の支出などの行為と、怠る事実(242条1項) 当該普通地方公共団体の事務の執行に関し、監査の請求をすることができる(75条1項)
請求できる期間 当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、請求できない(242条2項) 75条に、242条2項のような期間の定めは無い
監査の後 理由がないと認めるときは、理由を付してその旨を書面により請求人に通知し公表する。理由があると認めるときは、期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告する(242条5項) 監査の結果に関する報告を決定し、代表者に送付し、公表するとともに、議会・長・関係のある委員会などに提出する(75条3項)
訴訟につながるか 請求をした住民は、監査の結果などに不服があれば住民訴訟を起こせる(242条の2第1項) 住民訴訟を起こせるのは「前条第一項の規定による請求をした場合」(242条の2第1項)だけ。75条の請求から訴訟につながる定めは無い

違いの1つ目は、誰が請求するかです。事務監査請求は、選挙権を有する者が、その総数の50分の1以上の連署をもって、その代表者から請求します(75条1項)。住民監査請求には連署の定めがありません。総務省の資料「住民監査請求・住民訴訟制度について」は、請求できる者について、法律上行為能力を認められている限り自然人でも法人でも可能で、「1人であってもよい」としています。

同じ「誰が」の行では、請求する権利の書き方も違います。事務の監査を請求する権利を持つのは「日本国民たる普通地方公共団体の住民」です(12条2項)。242条1項は「普通地方公共団体の住民」と書き、「日本国民たる」の語はありません。

2つ目は、何についてです。事務監査請求は、普通地方公共団体の事務の執行に関して監査を求めるもので、違法か不当かを問う形にはなっていません。住民監査請求は、違法若しくは不当な公金の支出などの行為と、怠る事実に限られます。

3つ目は、その先に訴訟があるかです。住民訴訟を起こせるのは「前条第一項の規定による請求をした場合」(242条の2第1項)、つまり住民監査請求をした住民だけです。事務監査請求をしても、そこから住民訴訟に進む定めはありません。75条の監査の結果は、報告として代表者に送付され、公表されるとともに、議会や長などに提出されます(75条3項)。

4つ目は、請求できる期間です。住民監査請求には1年の制限があります(242条2項)。75条には、242条2項のような期間の定めはありません(署名については、74条7項から9項までなどが準用されています。75条6項)。

「事務監査請求をした住民は、監査の結果に不服があるときは住民訴訟を提起することができる」とする肢は誤りです。住民訴訟の前提は、242条1項の住民監査請求をしたことです。


住民訴訟は民衆訴訟

行政事件訴訟法は、「国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するもの」を民衆訴訟と定めています(5条)。住民訴訟は、住民が、自己の法律上の利益にかかわらない住民という資格で、執行機関や職員の違法な行為又は怠る事実の是正を求める訴訟なので、この民衆訴訟に当たると解されます。民衆訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができ(42条)、住民訴訟では、地方自治法242条の2がその「法律に定める場合」と「法律に定める者」(住民監査請求をした住民)を定めています。242条の2第11項が、民衆訴訟又は機関訴訟について抗告訴訟又は当事者訴訟の規定を準用する行政事件訴訟法43条の適用を定めているのも、これと合っています。

機関訴訟(6条)は、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟で、住民が起こす住民訴訟とは別の類型です。

2号の取消し又は無効確認の請求には、行政事件訴訟法の取消訴訟に関する規定(9条と10条1項を除く)や、無効等確認の訴えに関する規定(36条を除く)が準用されます(43条1項・2項)。ただし、出訴期間などは242条の2第2項から10項までに定めがあり、11項は「第二項から前項までに定めるもののほか」行政事件訴訟法43条の適用があるとしています。抗告訴訟としての取消訴訟の出訴期間や審査請求との関係は、審査請求と取消訴訟の違いのページで扱っています。

242条の2第10項は、住民訴訟の対象となる違法な行為又は怠る事実について、民事保全法に規定する仮処分をすることができないと定めています。行政事件訴訟法の仮の義務付け・仮の差止め(37条の5)は、これとは別の、抗告訴訟の義務付けの訴え・差止めの訴えについての制度で、仮の義務付けと仮の差止めのページで扱っています。


出題された最高裁判所の判例

本試験では、次の4つの最高裁判所の判決が問われています(表Bに無い、行政法の総論の問を含みます)。いずれも裁判所ウェブサイトの判決文で確かめたものです。判決の判断は、条文と分けて書いています。

適法な監査請求が却下されたとき(最高裁平成10年12月18日判決)

最高裁判所第三小法廷平成10年12月18日判決(民集52巻9号2039頁)は、監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民は、直ちに住民訴訟を提起することができるのみならず、同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の住民監査請求をすることも許される、と判断しました。そして、このときの住民訴訟の出訴期間は、242条の2第2項1号に準じ、却下の通知があった日から30日以内と解するのが相当としています。この判決は平成29年度 問24で問われました。

随意契約の制限に反する契約と1号の差止め(最高裁昭和62年5月19日判決)

最高裁判所第三小法廷昭和62年5月19日判決(民集41巻4号687頁)は、普通地方公共団体が随意契約の制限に関する法令に違反して締結した契約は、当然に無効になるのではなく、特段の事情が認められる場合に限り私法上無効になるとしました。そのうえで、その契約が無効といえない場合には、地方公共団体は契約に基づく債務を履行すべき義務を負うので、242条の2第1項1号に基づいて契約の履行行為の差止めを請求することはできない、と判断しています。この判決は平成24年度 問9・平成29年度 問24・令和4年度 問9で問われました(契約の効力の部分は、行政法の総論の問でも問われています)。

原告が死亡したとき(最高裁昭和55年2月22日判決)

最高裁判所第二小法廷昭和55年2月22日判決(集民129号209頁)は、242条の2に規定する住民訴訟は、原告が死亡した場合においては、その訴訟を承継するに由なく、当然に終了すると判断しました。判決文が理由として述べているのは「承継するに由なく」までで、相続人が承継しない理由をそれ以上説明してはいません。この判決は令和2年度 問24で問われました。

住民訴訟の対象の請求権を放棄する議決(最高裁平成24年4月20日判決)

最高裁判所第二小法廷平成24年4月20日判決(民集66巻6号2583頁)は、住民訴訟の対象とされている損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を放棄する旨の議会の議決について判断しました。債権の放棄は、議会の議決と長の執行行為という手続的要件を満たしている限り、その適否の実体的判断は基本的に議会の裁量権に委ねられているとしたうえで、請求権の発生原因である財務会計行為等の性質、内容や、住民訴訟の係属の有無及び経緯などの諸般の事情を総合考慮して、放棄することが地方自治法の趣旨等に照らして不合理であって裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められるときは、その議決は違法となり、当該放棄は無効となる、としています。同じ日に、同じ小法廷で、放棄の議決についての判決がもう1つ出ています。この判決は令和2年度 問24で問われました。

この判決の後、242条10項に、住民監査請求があった後に、その請求に係る行為又は怠る事実に関する損害賠償又は不当利得返還の請求権その他の権利の放棄に関する議決をしようとするときは、議会はあらかじめ監査委員の意見を聴かなければならない、という定めが置かれました(令和2年4月1日施行の版から)。


本試験での出題

表Bは、平成21年度〜令和7年度の本試験のうち、地方自治法242条・242条の2・242条の3・75条にかかわる肢があった問を並べたものです。「当たる肢」はその問のうち、過去問の分析でこれらの条を関連法令に挙げた肢の数です(判例だけを挙げた肢は数に入っていません)。「問われ方」も過去問の分析で付けた分類です。問題文は載せていません。


表B 本試験での出題(地方自治法242条・242条の2・242条の3・75条。平成21年度〜令和7年度・20問55肢)
年度・問 形式 条文 当たる肢 問題のテーマ 問われ方
平成21年度 問18 択一式 自治法242条の2 1肢 当事者訴訟と他の訴訟類型の区別 制度の混同
平成21年度 問22 択一式 自治法75条 2肢 監査制度(外部監査・事務監査・監査委員) 数値・期間すり替え/適用範囲
平成21年度 問23 択一式 自治法242条・自治法242条の2 1肢 一部事務組合の法的性質 制度の混同
平成21年度 問24 択一式 自治法242条・自治法242条の2 5肢 住民監査請求(請求権者・対象・請求先) 適用範囲/主体すり替え/制度の混同
平成22年度 問24 択一式 自治法242条の2 5肢 住民訴訟の要件(監査請求前置・管轄・類型) 要件・効果の正誤/分類・区別/条文知識/主体すり替え
平成23年度 問21 択一式 自治法242条の2 5肢 住民訴訟の請求類型(4類型) 適用範囲/条文知識
平成25年度 問21 択一式 自治法242条・自治法242条の2・自治法75条 5肢 住民監査請求と事務監査請求の相違 定義の正誤/分類・区別/適用範囲/制度の混同
平成25年度 問24 択一式 自治法242条の2 1肢 住所・選挙権・直接請求と国籍(判例含む) 判例の結論
平成26年度 問22 択一式 自治法242条の2・自治法75条 4肢 住民の資格と国籍(住民訴訟・事務監査・被選挙権) 適用範囲
平成27年度 問21 択一式 自治法242条の2 3肢 住民訴訟の要件・法的性質 適用範囲/条文知識
平成29年度 問24 択一式 自治法242条・自治法242条の2 4肢 住民監査請求と住民訴訟(判例) 法系・沿革/制度の混同/要件・効果の正誤/判例の結論
平成30年度 問18 択一式 自治法242条の2 1肢 民衆訴訟と機関訴訟の区別 分類・区別
平成30年度 問24 択一式 自治法242条・自治法75条 1肢 都道府県の事務(自治事務・法定受託事務) 条文知識
平成30年度 問26 択一式 自治法242条の2 1肢 市立保育所廃止条例と抗告訴訟(処分性・第三者効) 適用範囲
令和元年度 問43 多肢選択式 自治法242条の2 1肢 行政事件訴訟の類型 用語の意味(地方自治)
令和2年度 問24 択一式 自治法242条・自治法242条の2 3肢 住民訴訟の要件・効果(判例) 要件・効果の正誤/制度の混同/条文知識
令和4年度 問23 択一式 自治法242条・自治法242条の2 4肢 住民監査請求・住民訴訟の原告適格と要件 要件・効果の正誤/定義の正誤/条文知識
令和4年度 問26 択一式 自治法242条・自治法75条 2肢 住民の地位と国籍(監査請求・選挙権・住民登録) 主体すり替え
令和5年度 問23 択一式 自治法75条 1肢 直接請求(事務監査・条例制定改廃・議会解散) 定義の正誤
令和6年度 問23 択一式 自治法242条・自治法242条の2・自治法242条の3 5肢 住民監査請求と住民訴訟の要件・効果 条文知識/適用範囲/分類・区別/要件・効果の正誤

条ごとに見ると、242条の2(住民訴訟)は平成21年度〜令和6年度の間に16問35肢、242条(住民監査請求)は平成21年度〜令和6年度の間に9問11肢、75条(事務監査請求)は平成21年度〜令和5年度の間に6問10肢です。242条の3は令和6年度 問23で問われています。同じ肢が複数の条にかかわることがあるので、足しても表Bの数にはなりません。

表Bの20問のうち3問(平成25年度 問21・平成30年度 問24・令和4年度 問26)は、同じ問の中に242条と75条の両方にかかわる肢がありました。また、5問(平成21年度 問18・平成30年度 問18・平成30年度 問26・令和元年度 問43・令和4年度 問26)は、過去問の分析で地方自治法以外の科目(行政事件訴訟法・行政法の総論)に分けた問で、その中で住民訴訟などが問われたものです。

表Bの範囲では、記述式では出題されていません。242条の2は、記述式に出ていない条文のうち択一で問われることの多いものとして、記述式の論点別のページの表に挙がっています。242条も、同じ論点別のページの表に挙がっています。


よくある質問

住民訴訟を提起できる人は?

その普通地方公共団体の住民で、自ら住民監査請求をした者です(地方自治法242条の2第1項)。総務省の資料は、住民訴訟を提起できる者を「住民監査請求を行った当該地方公共団体の住民(法人を含む。)」としています。住民訴訟が係属しているときは、他の住民は、別訴をもって同一の請求をすることはできません(242条の2第4項)。

住民監査請求は誰ができますか?

その普通地方公共団体の住民です(242条1項)。事務監査請求(75条)のような連署の定めはありません。総務省の資料は、請求できる者について、法律上行為能力を認められている限り自然人でも法人でも可能で、1人であってもよいとしています。

住民監査請求は違法と不当のどちらでもよいのですか?

はい。住民監査請求の対象は、違法若しくは不当な公金の支出などの行為と、違法若しくは不当に公金の賦課・徴収や財産の管理を怠る事実です(242条1項)。これに対し、住民訴訟で争えるのは違法な行為又は怠る事実だけで、不当は入りません(242条の2第1項)。

監査請求と住民監査請求の違いは?

住民が監査委員に監査を求める制度には、住民監査請求(242条)のほかに、一般に事務監査請求と呼ばれる75条の監査の請求があります。事務監査請求は、選挙権を有する者の総数の50分の1以上の連署をもって代表者から、地方公共団体の事務の執行について監査を求めるもので、住民訴訟にはつながりません。住民監査請求は連署の定めがなく、違法若しくは不当な公金の支出などの行為と怠る事実を対象とし、請求をした住民はその後に住民訴訟を起こせます。


まとめ

住民訴訟は、住民監査請求をした住民が、監査の結果などに不服があるときに起こす訴訟です(242条の2第1項)。住民監査請求は、違法若しくは不当な行為・怠る事実について監査委員に必要な措置を広く求めるもので、行為のあった日又は終わった日から1年の制限があります(正当な理由があるときを除きます)。住民訴訟は、違法なものだけを対象に、1号から4号までの4類型に限って、4つの起算点から30日以内に地方裁判所に起こします。

事務監査請求は、50分の1以上の連署で事務の執行について監査を求める別の制度で、住民訴訟にはつながりません。表A・表C・表D・表Eの各行で、どの語がどの条にあるかを確かめておきましょう。

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