記述式の練習でつまずくのは、たいてい問題の数ではありません。本試験の問題は一般財団法人 行政書士試験研究センターが年度ごとに無料で公表していますし、市販の問題集もあります。足りていないのは材料ではなく、回し方と、自分の答案を自分で確かめる基準です。
記述式には、模範解答がありません。公表されていないからです。点数が返ってこない練習は続かないので、点数の代わりになる見方を先に用意しておきましょう。
このページでは、材料の在りかを確かめたうえで、思い出して書く回数の作り方と、主体・条文の文言・効果の3点で自分の答案を確かめる手順をまとめます。
記述式の模範解答と採点基準は公表されていません。このページの見方も、条文から組んだものです。
材料は、もう無料でそろっている
練習に使うものは、次の2種類で十分です。
- 本試験の問題
- 一般財団法人 行政書士試験研究センターが、年度ごとに問題を公表しています(過去の試験問題と正解)。記述式は問44から問46までの3問で、40字程度で記述する形式です。無料で手に入る材料としては、これがいちばん確かなものになります。ただし、公表されているのは直近の数年ぶんです。それより前の年度は載っていないので、古い年度の論点は、次の「論点と年度の対応」から当たることになります。
- 論点と年度の対応
- 平成21年度〜令和7年度の51問が、どの条文のどの論点だったのかを1問1行で並べたものが、記述式の論点別のページにあります。年度の順ではなく論点の順に練習を組みたいときは、こちらから引いてみましょう。
過去問を材料にするときに1つ注意があります。民法34問のうち10問は、出題当時の条文が改正されています。条番号がそのままで中身が変わったもの、条文ごと削除されたものがあり、いまの条文を引くと別の内容に行き当たります。どの問が該当するかは、記述式の論点別のページの一覧で確かめられます。
市販の問題集は、調べた範囲ではどれも論点の順に並んでいました。年度の順で回すか論点の順で回すかは、次の節の回し方とあわせて決めるのがよさそうです。
「選んで当てる」と「思い出して書く」は、別の作業
問題演習には2つの形があります。並んだ選択肢から正しいものを選ぶ形と、何も見ずに答えを思い浮かべる形です。認知心理学では前者を再認、後者を想起と呼びます。
択一の演習を重ねていると、1日の練習がほとんど前者だけになっていることがあります。ところが記述式は、選択肢のない状態で40字程度を自分で書く形式です。ここが、練習の形をわざわざ見直す理由になります。
想起の形で練習することについて、報告されていること
想起の形で練習することの効果は、繰り返し検証されています。数字はいずれも効果量(g)で、大きいほど差が大きいことを表します。
- 61の研究・159の効果量をまとめたメタ分析では、想起練習は再学習を上回りました(g = 0.50)。保持の間隔が1日以上あく条件では、差が大きくなっています(g = 0.69)。[Rowland, 2014]
- 同じメタ分析では、正解を返す仕組みがあるかどうかで差が変わりました。フィードバックあり g = 0.73、なし g = 0.39 です。
- そして、効果の大きさは「最後に受けるテストの形式」でも変わりました。手がかり想起 g = 0.57、自由想起 g = 0.49 に対し、選択肢から選ぶ再認は g = 0.31 でした。
- 形式を直接くらべた研究では、フィードバックがない条件では多肢選択で練習した群のほうが成績がよく、フィードバックがある条件では短答(想起)で練習した群のほうがよくなりました。[Kang ほか, 2007]
- 手がかりが少ないほどあとに残る、という報告もあります。初期の学習が自由想起だった条件が、手がかり想起・再認のどちらよりも良い結果でした。[Carpenter & DeLosh, 2006]
いずれも語の対応づけ・散文・講義の材料を用いた記憶の実験であり、行政書士試験の記述式で検証されたものではありません。記述式の練習と結びつけているのは、このページの解釈です。
ここから読み取れるのは、想起の形は、正解が返ってくる仕組みとセットでなければ意味が薄くなるということです。何も見ずに書いてみるだけで、正しい文に戻さずに次へ進むと、上の研究が差を報告した条件から外れます。順番を逆にしないでおきましょう。
多肢選択の演習そのものを否定する話ではありません。同じ系統の研究では、多肢選択のテストを受けた項目の最終正答率は63パーセントで、受けていない項目の40パーセントを大きく上回っています。一方で、誤答の選択肢が最終テストの答えに混ざってくる率が上がることも報告されています(未テスト5パーセント、テスト後12パーセント)。[Roediger & Marsh, 2005]そしてフィードバックを与えると、正答率は上がり、誤答の混入は減りました。[Butler & Roediger, 2008]択一の演習は、答え合わせまでを1セットにする、という点に集約されます。
音声で進めるときの1問の形
ぶんまわしちゃんで音声に変換されるのは、問題文と解説だけです。選択肢は読み上げません。したがって、耳で進めているあいだの1問は、問題を聴く → 答えを思い浮かべる → 正しい文を聴くという形になります。基本の使い方は画面と音声を同時に使う形で、耳だけで進めるのは、一度やった範囲を流し直すときの使い方です。
仕様として決めてあることと、対応する研究の結果を並べておきます。
- 選択肢を音声に流さない
- 耳で進めているあいだは、手がかりが問題文だけになります。あわせて、問題文は「それだけを聴いて答えを思い浮かべられる形にする」ことを作問の必須仕様にしており、「次の記述のうち最も妥当なものはどれか」という五肢択一そのままの問い方は使っていません。[対応する研究:Rowland 2014 の想起練習 g = 0.50、Carpenter & DeLosh 2006 の手がかりの少なさ]
- 解説の先頭の一文は、必ず正しい文を述べる
- 「◯◯によれば『△△』です。」という定型句から始まります。回答したあとに、その解説の音声が流れます。[対応する研究:Rowland 2014 のフィードバックあり 0.73 対 なし 0.39、Kang ほか 2007]
- 正解語は、思い浮かべられる長さにする
- 問題文だけを聴いて想起できる長さにすることを必須仕様にしていて、実測では平均18字から36字でした。記述式の解答は40字程度ですから、同じくらいの長さを毎問、自分で思い浮かべていることになります。
- 全問オリジナル
- 過去問の肢をそのまま使っていません。ただし過去問で問われた論点は網羅しています。この2つはセットの話です。
並べているのは、仕様として決めてあることと、研究が報告した結果です。この形で練習すれば記述式の点が上がる、という意味ではありません。行政書士試験の記述式でその効果を検証した研究は、確認できていません。また、正しい文が返ってくることが条件として働いている、というところまでが研究の届く範囲で、返ってくるのが直後であること自体の優位は、結論が出ていません。
1週間の回し方
材料と形が決まったら、あとは間隔です。同じ問を続けて2回書くのではなく、日をあけて戻ってくる組み方にします。
- 初日は、問題を読んで答案を書く。書けないところは空けたままにして、時間で切る
- 書き終えてから、条文を引いて自分の答案を確かめる(次の節の3点)
- 翌日以降に、答案を見ずにもう一度書く。ここが練習の本体です
- 書けた問は間隔を広げ、書けなかった問は短い間隔で戻す
- 週の終わりに、同じ条文の別の年度・別の切り口の問を1問あてる
間隔をあけることには、根拠があります。先のメタ分析では、保持の間隔が1日以上あく条件で効果量が大きくなりました(g = 0.69)。また、間隔をあけて2周した条件が、間をおかずに2周した条件を上回ったという報告もあります。[Murphy ほか, 2022]効果を生んでいるのは、周回の数そのものではなく、間隔をあけることです。
5の「別の切り口の問」は、記述式の論点別のページから引けます。同じ条文が数年の間隔をおいて、問われ方を変えて戻ってきている例が並んでいます。「答えを覚えてしまった」という状態でも、覚えてしまっているのはその年の正誤の答えで、条文の要件・効果等は別の切り口で再度出題されます。
「1日に何問」という数字は示しません。記述式で1日何問が適切かを示す根拠を、このページは持っていません。決めておくとよいのは問数ではなく、答案を見ずに書き直す日を作ることと、書いたら必ず条文に戻ることの2点です。
模範解答が無いなかで、自分の答案を確かめる
記述式の模範解答は公表されていません。世に出ている解答例は、すべて予備校や個人が作成したものです。採点基準も公表されていないため、「この語を書けば何点」という形の説明は、どこから出ていても推測になります。
それでも、模範解答がなくても自分で確かめられることがあります。次の3点です。
- 主体 誰が、誰に対してか
- 条文どおりになっているかを見ます。取消訴訟でよくあるのは、被告を行政庁と書いてしまう形です。処分をした行政庁が国または公共団体に所属する場合、取消訴訟の被告はその行政庁の所属する国または公共団体です(行政事件訴訟法11条1項1号)。行政庁そのものではありません。
- 条文の文言 要件の言葉が条文のままか
- 「重大な損害」を「大きな損害」と書いていないかを見ます。非申請型の義務付けの訴えも差止めの訴えも、要件は「重大な損害を生ずるおそれ」です(同法37条の2第1項・37条の4第1項)。意味の近い日常語に置き換えると、条文が区切っている範囲から外れます。
- 効果 何ができる、どうなるが書けているか
- 要件だけを書いて終わっていないかを見ます。「〜を請求することができる」「〜の訴えを提起すべきである」に当たる部分が無ければ、設問の問いに答えていないことになります。
この3点は、答案を書くときの3要素とそのまま同じ並びです。書くときと確かめるときで、同じ視点を使うということになります。要素ごとの書き出し方と、設問がどの要素を指示しているかの分類は、記述式の書き方のページにあります。
3点を満たしていても、それが本試験で何点になるかは分かりません。採点基準が公表されていないからです。このページで示しているのは点数の予想ではなく、自分の答案のどこが条文から外れているかを見つけるための見方です。確実に言えるのは、白紙の答案には得点がつきようがない、という点に限られます。
記述式を除いた得点で自分がどこにいるのかは、記述式の全体像のページで逆算できます。
よくある質問
記述式の練習問題は、無料で手に入りますか?
本試験の問題は、一般財団法人 行政書士試験研究センターが年度ごとに無料で公表しています。記述式は問44から問46までです。ただし、公表されているのは直近の数年ぶんで、それより前の年度は載っていません。どの年度のどの問がどの条文のどの論点だったのかは、記述式の論点別のページで1問1行にして並べていますので、論点の順に回したいときはそちらから引けます。なお、民法34問のうち10問は出題当時の条文が改正されているため、そのまま解くと現行法の練習になりません。
記述式の対策は、独学でもできますか?
材料の面では、本試験の問題が無料で公表されているため、独学でもそろいます。難しいのは、模範解答が公表されていないため、自分の答案が正しいかどうかを外から教えてもらえない点です。その代わりになるのが、主体・条文の文言・効果の3点で自分の答案を条文と突き合わせる作業です。点数を当てることはできませんが、条文から外れている箇所は自分で見つけられます。
記述式の勉強法として、過去問はどう使えばよいですか?
初日に書いて、翌日以降に答案を見ずに書き直す形が、記述式には向いています。間隔をあけて戻ると効果量が大きくなるという報告があるためです(ただし記憶の実験で、行政書士試験の記述式で検証されたものではありません)。あわせて、民法34問のうち10問は条文が改正されている点に注意が必要です。該当する問は、改正で何がどう変わったかを確かめる材料として使うか、飛ばすかを先に決めておきましょう。
記述式の練習は、択一の勉強とどう分ければよいですか?
分けるのは材料ではなく、練習の形です。令和元年以降の46件でみると、記述式の論点の72パーセントは、その年より前に同じ条文で択一に出ています。覚える中身は重なっていて、違うのは、並んだ選択肢から選ぶ形か、何も見ずに思い出して書く形かという点です。択一の演習は答え合わせまでを1セットで回し、そのうえで週のうち何日かを「答案を見ずに書く」日にあてる、という分け方になります。
まとめ
記述式の練習で足りていないのは、問題の数ではありません。本試験の問題は無料で公表されていて、論点と年度の対応も表にできます。足りていないのは、思い出して書く回数と、自分の答案を確かめる基準です。
回し方は、初日に書いて、日をあけて答案を見ずに書き直すという形です。確かめ方は、主体・条文の文言・効果の3点を条文と突き合わせる形です。どちらも模範解答がなくても回せます。
選択肢から選ぶ形と、何も見ずに思い出して書く形は別の作業で、後者の形で練習することの効果は記憶の実験で繰り返し報告されています。ただし、それらは行政書士試験の記述式で検証されたものではなく、記述式の練習と結びつけているのはこのページの解釈です。
次の1問は、記述式の論点別のページから選んでみましょう。同じ条文が、問われ方を変えて戻ってきている例が並んでいます。
設問の指示の型ごとの書き出し方は、記述式の書き方のページにあります。
記述抜き何点で足りるかの逆算は、記述式の全体像のページで確かめられます。