即時取得の要件|占有改定と盗品の回復(民法192条〜194条)

このページは、宅地建物取引士資格試験(宅建試験)と行政書士試験の受験生向けに、民法の即時取得を、192条から194条までの条文と過去問の出題実績をもとに整理したものです。即時取得は、動産を取引によって手に入れた人が、前の占有者(売主など)に権利が無いことについて善意で、かつ過失も無いときに、その動産の権利を取得できるという制度です。

要件がいくつも並ぶので、1つずつ丸暗記しようとすると混同しやすくなります。試験では、要件そのものよりも、どの場面なら当てはまらないかという形の選択肢が目立ちます。そこで表1では、条文が求めることと、当てはまらない場面を項目ごとに整理しました。

このページは、3つの表を軸に構成しています。まず表1で要件を1つずつ確認し、判例に拠るところを条文と分けて説明します。次に、盗品・遺失物の回復(193条・194条)を確認したうえで、表2でこの論点が宅建試験と行政書士試験でどのように問われているかを示し、表3で論点ごとにいつ問われたかを並べました。

本記事は、2026年9月時点の民法にもとづき、令和8年度の宅地建物取引士資格試験および令和8年度の行政書士試験の制度に合わせて書いています。


即時取得の要件を1つずつ確認する

即時取得の条文は、次のとおりです。

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

民法192条

この条文を要件ごとに分けると、要件は動産であること、取引行為によること、平穏・公然であること、善意・無過失であること、占有を始めたことの5つになります。満たしたときの効果は、「即時にその動産について行使する権利を取得する」です。表1は、この5つの要件と効果、そして例外にあたる盗品・遺失物を、項目ごとに並べたものです。


「出題」は、宅建は昭和63年〜令和7年の本試験(令和2年・令和3年は10月と12月の2回)、行政書士は平成21年〜令和7年の本試験の過去問で、年度と問番号を確認できたものだけを掲載しています。「直近10年」は、宅建は平成28年〜令和7年の12回、行政書士は平成28年〜令和7年の10回で、その行の論点が問われた回数です。3つ以上あるときは新しい年度の2件を載せ、残りは件数で示しています。「問われ方」は、過去問で誤りの選択肢として出題された形です。「どちらの試験で出るか」の表には、出題の事実だけを記載しています。今後の出題を予想したものではありません。


表1 即時取得の要件
項目 条文が求めること 当てはまらない場面・注意 条文
動産であること問われ方:土地を、善意・無過失で買い受けて占有を始めた買主は、即時に所有権を取得する、とする形 即時取得できるのは動産 土地や建物(不動産)には適用されない。道路運送車両法の登録を受けている自動車にも適用されない(判例)。登録を受けていない自動車には適用される(判例) 民法192条
取引行為によること 売買・贈与・代物弁済・質権の設定など、取引行為によって占有を始めること 相続によって占有を始めたときは、取引行為に当たらない。取引そのものが取り消されたとき(初めから無効とみなされる)や、無権代理で本人が追認しないときも、即時取得で補われない 民法192条
民法121条
平穏・公然 平穏に、かつ、公然と占有を始めること。占有者は、平穏・公然と占有するものと推定される 推定されるので、即時取得を争う側が、平穏・公然でなかったことを立証することになる 民法192条
民法186条1項
善意・無過失問われ方:即時取得を主張する者が、自分に過失が無かったことを立証しなければならない、とする形 前の占有者に権利があると信じ(善意)、そう信じたことに過失が無いこと。善意は推定される 無過失も推定される。占有者が占有物について行使する権利は適法に有するものと推定される、という条文を理由にした判例による。代理人によって取引したときは、代理人について判断される 民法192条
民法186条1項
民法188条
占有を始めたこと問われ方:占有改定による引渡しでも、即時取得が認められる、とする形 引渡しを受けて占有を始めること。現実の引渡しのほか、指図による占有移転でもよい(判例) 占有改定(前の占有者が、以後は取得者のために占有すると表示するだけの引渡し)では、即時取得しない。外から見た占有の状態が変わらないから(判例) 民法192条
民法183条
民法184条
取得する権利 即時に、その動産について行使する権利を取得する。所有権のほか、質権も取得できる 「原始取得」は条文の語ではなく、条文は「行使する権利を取得する」と定めるだけ 民法192条
盗品・遺失物 占有物が盗品・遺失物のときは、被害者・遺失者は、盗難・遺失の時から2年間、占有者に回復を請求できる 占有者が、競売・公の市場・同じ種類の物を売る商人から善意で買い受けたときは、被害者・遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ回復できない 民法193条
民法194条

判例に拠るところは、その旨を明記しています。条文の列には、民法192条から194条までと、それとあわせて読む条文を挙げています

表1の右の列には、条文の言葉だけでは決まらず、判例が結論を示しているところがあります。占有の始め方、自動車の扱い、無過失の推定の3つです。以下で、条文と判例を分けて整理します。

占有改定では認められず、指図による占有移転では認められている

占有を始める方法には、物を実際に受け取る現実の引渡しのほかに、条文に定めのある方法が2つあります。

  • 占有改定:物を持っている代理人(たとえば売主)が、自分の占有物を以後は本人(買主)のために占有する意思を表示すること。これで本人は占有権を取得します(民法183条)。物は売主の手元に残ったままです。
  • 指図による占有移転:代理人(たとえば倉庫業者)によって占有している本人が、その代理人に、以後は第三者のために占有するよう命じ、第三者が承諾すること。これで第三者が占有権を取得します(民法184条)。

192条は「占有を始めた」と定めるだけで、どの方法で始めたかを限っていません。この点について判例は、占有改定で引渡しを受けただけでは、一般外観上、それまでの占有の状態が変わらないので、192条の占有を始めたことにならないとしています(最高裁昭和35年2月11日判決)。「外観上の占有の状態の変更」は判決の言葉で、条文の言葉ではありません。

一方、指図による占有移転については、倉庫に預けてある物を、倉庫業者の台帳の寄託者の名義を書き換えて引き渡した事案で、最高裁は192条の占有の取得にあたるとしました(最高裁昭和57年9月7日判決)。判例は、指図による占有移転で即時取得を認めていますが、この判決は倉庫業者の台帳の書換えという事案についての判断です。

「占有改定による引渡しでも、即時取得が認められる」という形の選択肢が、行政書士試験で繰り返し出ています。占有改定と指図による占有移転は、どちらも物の現実の移動を伴わない引渡しですが、判例の結論は逆です。

対象は動産に限られる:不動産と、登録を受けた自動車

192条は、対象を「動産」と定めています。土地や建物といった不動産には適用されません。不動産を、前の占有者に権利が無いことを知らずに買い受けて占有を始めても、192条によって即時に所有権を取得することはありません。

自動車は動産ですが、判例は、道路運送車両法による登録を受けている自動車には、192条は適用されないとしています。登録が所有権の移転の公示の方法とされているからです(最高裁昭和62年4月24日判決)。登録を受けていない自動車には、192条の適用があるとされています(最高裁昭和45年12月4日判決)。

善意・無過失は、どちらも推定される

占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定されます(民法186条1項)。この条文が推定するのは、善意・平穏・公然までで、無過失は挙げられていません。

無過失については、占有者が占有物について行使する権利は適法に有するものと推定する、という別の条文(民法188条)を理由に、判例が推定されるとしています(最高裁昭和41年6月9日判決)。このため、即時取得を主張する側が、自分に過失が無かったことを立証する必要はありません。

代理人によって取引したときについては、代理人がした意思表示について、ある事情を知っていたかどうかや、知らなかったことについての過失の有無は、代理人について決する、という定めがあります(民法101条1項)。即時取得の善意・無過失も、代理人によって取引したときは、代理人について判断されます。

取引そのものが効力を生じないときは、即時取得で補われない

即時取得が働くのは、取引行為によって占有を始めた場面です。相続によって物の占有を始めた相続人は、取引行為によって占有を始めたのではないので、192条の要件を満たしません。

また、即時取得が補うのは、前の占有者に権利が無かったことです。即時取得を主張する人が占有を始めた、その取引そのものが効力を生じない場合は、補われません。たとえば、その売買が制限行為能力を理由に取り消されると、初めから無効であったものとみなされます(民法121条)。代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人が追認をしなければ、本人に対して効力を生じません(民法113条1項)。取消しの効果については、無効と取消しの違いのページで解説しています。

取得するのは「行使する権利」:所有権のほか質権も

192条の効果は、「即時にその動産について行使する権利を取得する」です。売買で占有を始めた人は所有権を、質権の設定を受けて占有を始めた人は質権を取得します。

即時取得による権利の取得は、「原始取得」と説明されることがあります。ただし、原始取得は条文上の用語ではありません。条文が定めているのは、「行使する権利を取得する」ということだけです。


盗品・遺失物は、2年間取り戻せる

即時取得の要件を満たしていても、占有物が盗品または遺失物であるときは、被害者または遺失者は、盗難または遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができます(民法193条)。2年の期間は、占有者が物を手に入れた時からではなく、盗難または遺失の時から数えます。

さらに、占有者が盗品または遺失物を、競売もしくは公の市場において、またはその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者または遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができません(民法194条)。回復そのものを否定するのではなく、代価の弁償を回復の条件にする定めです。

193条と194条は、即時取得の例外として表1の最後の項目にも掲載しています。行政書士試験では、この2つの条文が40字程度で書く記述式でも問われています。


この論点は、どちらの試験で出るか

ここからは条文を離れて、実際の出題の事実を見ていきます。表2は、宅建試験と行政書士試験のそれぞれで、即時取得がどのように問われてきたかを並べたものです。


表2 この論点は、どちらの試験で出るか
項目 宅建 行政書士
この論点は出るか 出題されますが、即時取得だけで1問を組む問はありません。ほかの論点の問の選択肢の1つとして出題されます。不動産には適用されない、という形が中心です。年度は表3にまとめています 出題されます。即時取得だけで1問として出題される年があり、占有改定と指図による占有移転の判例が繰り返し問われています。盗品・遺失物は記述式でも問われました。年度は表3にまとめています
出題の形式 4肢択一。正しいもの・誤っているものを1つ選ぶ形です 5肢択一と、妥当なものの組合せを選ぶ形。これに加えて、40字程度で書く記述式があります
どこまで問われるか 条文の要件まで。代理人によって取引したときに誰について善意・無過失を見るか、も問われています 条文と判例まで。占有改定・指図による占有移転・無過失の推定・登録を受けた自動車の扱いが、判例の結論で問われます

出題の事実だけを記載しています。今後の出題を予想したものではありません。年度は、どちらの試験も過去問で問番号まで確認できたものだけを掲載しています

2つの試験で、出題のされ方がはっきり違う論点です。宅建試験では、即時取得は、ほかの論点の問の選択肢の1つとして出題されます。中心は不動産には適用されないという点で、表1の最初の項目がそのまま答えになります。

行政書士試験では、即時取得だけで1問として出題される年があり、占有改定と指図による占有移転、無過失の推定、登録を受けた自動車といった判例の結論が、選択肢に分かれて問われます。表1の右の列を、判例の年月日ではなく、結論と理由で押さえておくと対応しやすくなります。


論点ごとに、いつ問われたか

表3は、即時取得を論点ごとに分け、それぞれが宅建試験と行政書士試験でいつ問われたかを並べたものです。1つの問で複数の論点が問われることがあるため、同じ年度が複数の項目に載っています。


表3 論点別の出題実績
論点 宅建での出題年度 行政書士での出題年度 条文
動産であること(不動産・登録を受けた自動車) 平成26年 問3・平成19年 問3直近10年:出題なし 令和7年 問29直近10年:1回 民法192条
取引行為によること 出題なし 令和7年 問29・令和6年 問32 ほか1件直近10年:2回 民法192条
善意・無過失と、その推定 平成24年 問2直近10年:出題なし 令和4年 問28・平成23年 問29直近10年:1回 民法192条
民法186条1項
民法188条
占有の始め方(占有改定・指図による占有移転) 出題なし 令和7年 問29・令和2年 問28 ほか2件直近10年:2回 民法183条
民法184条
民法192条
取得する権利(所有権・質権) 出題なし 令和元年 問31・平成23年 問29直近10年:1回 民法192条
盗品・遺失物の回復と代価の弁償 出題なし 平成25年 問46(記述式)直近10年:出題なし 民法193条
民法194条

1つの問で複数の論点が問われることがあるため、同じ年度が複数の項目に載っています。3つ以上ある項目は、新しい年度の2件を載せ、残りは件数で示しています

表3の宅建試験の欄は、多くの項目が「出題なし」です。年度が並んでいるのは、動産であることの項目と、善意・無過失の項目だけです。行政書士試験の欄は、占有の始め方の項目に年度が最も多く並んでいます。

このページに載せているのは、過去の出題の事実だけです。今後の出題を予想するものではありませんので、学習を進めるときの参考資料として活用してください。


よくある質問

即時取得の対象とならないものは何ですか?

不動産です。民法192条は、対象を動産と定めています。また、道路運送車両法による登録を受けている自動車にも、192条は適用されないとするのが判例です(最高裁昭和62年4月24日判決)。登録を受けていない自動車には、192条が適用されるとした判例があります(最高裁昭和45年12月4日判決)。

占有改定による引渡しでは、なぜ即時取得が認められないのですか?

判例は、占有改定(民法183条)で引渡しを受けただけでは、一般外観上、それまでの占有の状態が変わらないので、192条の占有を始めたことにならないとしています(最高裁昭和35年2月11日判決)。指図による占有移転(民法184条)については、倉庫業者の台帳の寄託者の名義を書き換えた事案で、判例は即時取得を認めています(最高裁昭和57年9月7日判決)。

盗まれた物を即時取得した人から、取り戻せますか?

取り戻せます。盗難の時から2年間は、被害者は占有者に対して物の回復を請求できます(民法193条)。ただし、占有者が競売や公の市場、同種の物を販売する商人から善意で買い受けたときは、占有者が支払った代価を弁償しなければ回復できません(民法194条)。

即時取得と取得時効は、どう違いますか?

即時取得は、動産を取引行為によって占有した人が、善意・無過失などの要件を満たせば、即時に権利を取得するものです(民法192条)。取得時効は、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した人が、20年、占有の開始の時に善意・無過失であれば10年の占有を続けることで、所有権を取得するものです(民法162条1項・2項)。取得時効の条文は対象を「他人の物」と定めていて、動産に限っていませんし、取引行為によることも求めていません。


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